釣具の科学解説シリーズ
本業は研究寄り技術者の牧野が
釣具の科学を
ざっくり解説するシリーズ。
第1弾は最近のハイエンドロッドで使われるナノアロイについて
ナノアロイって?
超簡単に言うと
日本有数の繊維・樹脂メーカー東レさんが開発した
「ごく小さい領域(ナノオーダー)での高分子と高分子の混合(ポリマーアロイ)を可能にした技術」
ここで高分子(ポリマー)=樹脂(プラスチック)、ゴムなど
東レの特設サイト(http://www.nanoalloy.jp/)
ポリマーアロイって?
ナノアロイのベースとなる技術
これも超簡単に言うと
「本来その高分子が持っていない性質・機能を、異なる高分子を混ぜるすることで加える技術」
例えば、脆い樹脂(ポリスチレン)に耐衝撃耐性 の強いゴム(ポリブタジエン)を混合することで、耐衝撃性に優れたポリスチレン(HIPS)となります。
この技術自体はポリマーの性質改質で良く行われてきた手法で、高分子を扱う様々な企業、大学などで研究されています。
※ルアーボディによく使われるABS樹脂も
A(アクリロニトリル)B(ブタジエン)S(スチレン)共重合体であるので
広義で言えばポリマーアロイ技術の賜物
ほんじゃ、ナノアロイは何が良いわけ?
相反する性質を発現させるポリマーアロイの技術ではありますが
そもそも異なる高分子同士を混ぜ合わせるという技術。
その性質・機能は、高分子同士の混合状態や高分子同士が接する界面の状態に左右され、一般的には、ある性質・機能を良くすれば、一方の性質が悪くなる(トレードオフ)という状況が生まれます。
つまり、アロイ化する前の高分子本体の性質をまるまる引き継げるわけでは無いのです。
※乱暴な例えですが
卵焼きに枝豆を加える
→枝豆のちょっと固めな食感を感じることが出来るようになるが、何も入っていない卵焼きのふんわりとした食感は弱くなってしまう。両立はできない。
という感じでしょうか。
東レさんのナノアロイはこの点で従来のポリマーアロイと異なるようです。
高分子同士をナノオーダー領域で分散させることで、このトレードオフの関係を克服しているとのことです。
※乱暴な例えその2
卵焼きにいい塩梅、絶妙なサイズできざんだ枝豆を加える
→枝豆のちょっと固めな食感を感じることが出来るし、何も入っていない卵焼きのふんわりとした食感も感じることが出来る。かなり高度なレベルで両立している。
ということになります。
じゃ、釣り人としてはどう見ればいいの?
牧野はナノアロイ技術を使ったロッドとして、モアザンエキスパートags93mlを所有しています。
※ダイワ技術との融合でSVFコンパイルXnanoplusという名前になってますが…。
特徴としては、やはり軽さ(121g)とシャキッとしたロッド張り感があり、復元力が強いためかちょっとキャストのスイートスポットが狭いです。
一方で70cmくらいなら秋のシーバスもゴリ巻き出来る強さがあります。
なぜこのような特性が得られたか、東レさんのHPの物性から想像します。
ロッドに使われるプリプレグ(炭素繊維に樹脂を含浸したシート、CFRPの一歩手前)では、ナノアロイの適用によって、従来品(適用無し)よりもシャルピー衝撃試験での強度が高まっています。
簡単にいえばシャルピー衝撃試験に強い=衝撃に対してもろくない
ということになりますので
同重量?厚み?の従来品とナノアロイ適用品のプリプレグを使ってロッドを作れば
おそらくナノアロイ品の方が衝撃に強いロッドとなるでしょう。
また、同じ設計強度を出そうとしたときは、従来品よりもナノアロイ適用品の方が軽量に作れるはずです。
さらに東レさんのHPから想像します。
層間靭性(開口モード)という特性が従来品よりも高まっています。
靭性は単純に言えば物質の粘り強さです。カーボンロッドとして使うCFRPはプリプレグを層状に積層して使うことが一般的で、言葉のごとく層があるのですが、層間靭性(開口モード)ではこの層間を無理やり開口して靭性をとらえます。
この靭性が強い…これをロッドとした際の状況で捉えると、ロッドの使用により繰り返される変形に対して、CFRPの層間の剥がれなどが従来よりも抑制されるとすれば、耐久性はモチロンのこと、商品出荷状態に近い感度や曲がりの特性を保ったまま従来品よりも長期間使えるでしょう。
簡単に言えば
釣り人A「軽くて感度良くて、しかも壊れにくくて初めて使った時の感覚が長く続くロッドあったら良いよね~」
釣り人B「だねー、そんなんあるのw?」
という釣り人の井戸端会議的な妄想を現実にうまく引き出したような技術ですね。
まぁ、どんな構造体も今は軽量・高強度化は求められている部分ではありますし…
結局ナノアロイって、どうなのよ?
技術的に素晴らしいことは間違いないです。
今まで不可能だったことを可能にしたのですし。
牧野もモアザン触ったときはかっる!!って思いましたよ。
がまかつのティガロもナノアロイ使ってますが、かっる!!って思いました。(平凡)
ナノアロイの実現において、尽力したのは東レさんだけではないようで
山形大学やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)もかなり力を入れて研究、開発にとりくんでいたようです。
(山形大学は「だけじゃないテイジン!」で有名な㈱帝人が生まれた大学で、繊維や高分子に強い。)
ざっくり説明するつもりがかなり脱線しました^^;
ここまで読んでいただきありがとうございます。
こういう記事は定期的に更新してきたいですね。
それでは良い釣りを!
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